厄年日誌

私のライフワークブログです。途中まで学生時代の記事です。

光化学工業生産

前回から引き続きメモです(下記の書籍*1)より)。

酸化反応と還元は脳を同じ反応場(光触媒上)で同時に進行させることができる、という光触媒反応特有で他の反応系では実現不可能な特徴を利用し、有機合成に応用する研究が進められています。

必須アミノ酸の一種であるL-リシンを原料に、無酸素雰囲気の水溶液中で光触媒反応を行うと、ピペコリン酸が生成します。光触媒反応によるピペコリン酸の合成は、これまで知られている合成経路のうちで、特別な試薬を必要としない唯一の反応であり、また、͡この反応には励起電子と正孔による酸化還元反応が含まれており、副生成物が生成しません。このような光触媒による有機合成は、

(1)常温・常圧下で反応が進行するため比較的不安定な物質も対象となる。

(2)水溶性の化合物を原料にする事が出来る。

(3)酸化剤・還元剤の添加による副生成物が生成しない。

(4)光照射を止めれば反応が止まる。など、グリーンケミストリーに求められる特徴を有しています。しかし、設備投資に見合うだけの工程的・価格的メリットのある合成反応を見出せておらず、現在、工業化・製品化には至っていません。

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L-ピペコリン酸の合成

現在、工業生産に利用されている光化学反応は、恐らくPNC法と呼ばれる、東レが開発した「光ニトロソ化法によるε-カプロラクタム合成」だけです。ε-カプロラクタムは6-ナイロンの原料で、恐らく全世界で年間数十万トンの量が合成されています。光触媒反応による有機合成反応も、基本的には他の反応より優れた点が数多くありますが、実際に工業化するためには、これまでに利用されたことが無い装置を作る段階、すなわちゼロから始める必要があります。

 

 

*1)しくみ図解 光触媒が一番わかる 高島舞 大谷文章著 2019年第1刷 p68, 170