厄年日誌

私のライフワークブログです。途中まで学生時代の記事です。

ツクツク図書館

今週のお題「おすすめの本」

 友達から紹介された小説の本を久しぶりに読んでみました。

以下に、本の後ろに書いてある内容紹介を引用してあらすじを説明します。

”つまらない本”読むのが仕事
つまらない本しか置いていないツクツク図書館は、運び屋、語学屋、戻し屋ちゃん(幼稚園生)、と職員もヘンテコ揃い。そこにある秋、一人の着ぶくれ女がやってきた。仕事は蔵書を”読む”、ただそれだけ。なのに女は働かず、来る日も来る日もわがまま放題。だけど図書館にある≪伝説の本≫の話を聞いて・・・?

 物語は、着ぶくれの女が偶然伝説の本を探すようになってエンディングを迎えます。

ここからはネタバレしますが、



伝説の本はツクツク図書館に着ぶくれの女が来て以来、異常事態が次々に起こって見つかります。

その異常事態の一つの物語を要約して紹介します。



小説家の小説の部屋

 しくしくと泣き声が聞こえた。

トイレからである。(着ぶくれの)女がさっそく報告に行く。「館長」「はい」「誰か泣いていますよ」「そっとしておいてください」
「え?」「そっとしておいてください」


女が例のごとく遅刻したので館長がカウンターに座っていると一人の来訪者が現れた。

「物書きであります」と、彼は名乗った。
「いやあ、なんでもあなた、この図書館はつまらない本を集めているそうじゃないですか。さっきその噂を聞きつけましてね、これは次の小説のネタになるかもしれないぞと霊感が降りてきまして、一つ取材してやろうと思った次第であります」

館長は作家に館内を丁重に案内した。

とりわけ気に入ったのは≪小説家の小説の部屋≫だった。≪小説家の小説の部屋≫は壁一面が鏡に覆われている。どこを見ても作家氏が映っている。さも楽しげに作家氏は本を見て回る。が、突然ふと立ち止まる。
「館長さん」「はい」「ここの図書館は、つまらない本を集めていると言いましたね」「ええ、そうです」
「しかし中には『これは売れはしないが、味わいがあるな』と思える本もありませんか。人の好みなんて千差万別でしょう」「就任当初はそう思いました。でも、ちがうんです。うちにはそんな本すらありません。全てがつまらないんです。本物のつまらなさです」
「なるほど」
それから作家氏は棚に手を伸ばした。「館長さん」「はい」「これ、私の本です」


 女は珍しく館長の話を最後まできちんと聞いた。
「館長、あなたそれでなんて言ったんです」「『心中、お察し申し上げます』と」「いい台詞を言いましたね。館長」
そういうわけで、トイレから聞こえてくる泣き声は作家氏のものだったわけである。

まだこの話は続いてしまう。件の作家氏は閉館時刻を過ぎても帰らなかった。そしておそるおそる館長が閉館を告げにトイレに向かったところ、中には誰もいなかったのである。


 消えた作家氏の事で館長が首をかしげていたまさにその時、女はその作家が、いてはいけない場所にいることに首をかしげていた。
男性用トイレにいたはずの作家が、なぜだか隣の女性用トイレにいたのである。
「・・・変態さん?」女が訊く。  「変態じゃないよ。私は変態さんじゃないよ」
また女が訊く。「じゃあ、何」「作家だよ」と、作家氏は答えた。


ふたりの会話はさらに続く。
女;「今の答え方、でもちょっと変ですよね。だってもし知らない人に会って『あなた誰ですか?』って訊いた時に『私、人間です』と返ってきたら、あれ、このひともしかして人間じゃないのかな?って思うじゃないですか。普通の人間はわざわざ『人間です』って言わないですから。だから『作家です』って自分から言うひとを作家だとはちょっと思えないんですよね。たぶんあなた、作家じゃないですよ。」
作家氏;「いや君、その理屈は間違っている」
女;「どこがですか」
作家氏;「いいか、君の出した例がおかしいんだ。たとえば医者が『医者です』と答えるのは普通だろう。それなら私が『作家です』と答えるのも当然じゃないか。だって職業なんだから」
女;「じゃあ、なんで作家さんが女子トイレにいるんですか」
作家氏;「いや、それはだな」
と口ごもる作家氏。
「ほら、やっぱり答えられないんでしょう。あなたは作家さんじゃなくて変態さんなんですよ」
「だからちがうよ」
作家氏は必死に否定する。けれど今現在女子トイレにいる、という状況で何を言っても説得力はなかった。大体この女は人の話を聞かないことにかけては定評がある。
女はこう思っていた。
きっとこのひとは自分の本がうちにある事を知って、ショックのあまり変態さんになってしまったのだろう。それでひとまず女子トイレに入ってみたに違いない。きっと女子トイレに足を踏み入れただけで胸が高まってしまうタイプなのだ。これはとんでもない変態だ。

「がんばってくださいね」「何を言い出すんだ」「大変態目指して頑張ってください」「訳の分からないことを言うな」「いやだ、何を見せる気ですか」「いや、何か誤解していないか、君」「誤解も何も。私だって子供じゃないですから」「何を言っているんだ。いいからこれを見たまえ!」
そう言って男はトイレの個室をバタンと開けた。ツクツク図書館のトイレに地下階段があった。


かくして、館長、作家、女の三氏は男性用トイレと女性用トイレ用トイレをつなぐ抜け道で再会したわけである。
館長;「おや、これは皆さんおそろいで」
女;「館長知っていたの?この抜け道」
館長;「知りませんでした」
男;「おい君たち」
女;「ていうか暗いですね、そっちに電気のスイッチとかないんですか」
館長;「ここには見当たらないですね」
男;「なあ君たち」
女;「この道って、どこにつながっているの?」
などと真っ暗な部屋で三人が好き勝手にしゃべっているうちに、作家氏の堪忍袋の緒がぷっつりと切れた。
「私の話を聞きたまえ!」
「いったいなんなんだね、この図書館は!勝手に私の本をつまらない本にするわ、壁におかしな穴が開いているわ、しかもそこを通ったらクモがいるし、私は雲が大嫌いなんだ!それなのに気づいたら女子トイレで変態扱いだ。ふざけるのもいい加減にしたまえ!」
興奮する作家氏に女が応じる。「あんたうるさい!」
「才能もないのにガーガーしゃべるのやめてくれない?男のくせにクモがなんだっていうのさ。わたし、虫好きなんだけど!」
館長は心の中で「虫の話はどうでもいいです」と思うも口にはしなかった。






 もう一つ、ツクツク図書館の異常事態の一つで、短いけれど深〜〜い物話を紹介します。

・少女から女へ
 少女は、いつしか少女から「女」へと変わる。少女が「女」になる日、それは生まれて初めて、うその外泊を告げる時である。



「おばあちゃん、月曜の夜、あたし帰らないからさ」
「夜?どこにいくんだい」
「・・・・・」
「どこに行くんだい?」
「よ、幼稚園のお泊り会」

戻し屋ちゃん(幼稚園児)は今日女になった。




私の面白かった部分は以上となります。

この本についての考察は、またいずれ書きます。(次とは限りません)

ツクツク図書館 (MF文庫ダ・ヴィンチ)


 またね!